電離放射線 2011 4 10

書名 放射線の話
著者 大朏 博善  WAC文庫

 日本国内では、
福島原子力発電所から漏れた放射性物質(放射線)について、
多くの人が過敏になっていますが、
それに対して、私の感想は、少し違和感というものを感じています。
 今、新聞などでは、毎日、放射線量の数値が発表されていますが、
実は、放射線量が、今よりも高かった時もあるのです。
 それは、冷戦時代、世界各地で相次いだ核実験が原因です。
核兵器を有効なものとするには、数多くの核実験が必要となるのです。
当然、核実験の後、大気中の放射線量は高くなります。
 この時、日本国内の反応は静かなものでした。
日本は唯一の被爆国として、大騒ぎすべきでしたが、冷静というか冷めていました。
日本政府は、核実験を行った国は、どこの国で、
どのくらい放射線量があったのか、世界中に広報すべきだったのです。
日本は唯一の被爆国として、そういうことをする権利はあります。
 さて、前置きが長くなりましたので、本の話題に移りましょう。
「放射線が怖い」というのは、人間として、ごく自然な反応です。
それは、人間というものは、知らないものに対しては強く不安感を抱くものです。
そのため、「放射線」というものをよく知る必要があります。
 タイトルを「電離放射線」としたのは、「放射線」と言っても幅が広いからです。
放射線は、非電離放射線から電離放射線まであります。
現在、問題になっているのは、放射線のなかでも電離放射線のことです。
 それから、これは以前も書きましたが、
自然放射線も人工放射線も、人体にとっては、有害です。
自然放射線は、「自然」と名前がつくので、
「安全か」と勘違いしそうですが、有害であることは、人工放射線と同じです。
 この本から興味を引きそうな見出しを引用しましょう。
「人間の身体から放射線が出ている?」
「雨の銀座は、なぜか放射線が強い」
「放射線量が多いのにガン死亡率が低い」
「生命は放射線の海の中で進化した」
「地球は、なぜ温かいか」
「地球が放射線を放つ理由」
 このなかで、「人間の身体から放射線が出ている」というところが気になるでしょうか。
人間にとっても、植物にとっても、カリウムは欠かせない元素であり、
そのため、カリウムは、必須元素と呼ばれて、人間の体内に大量に存在します。
 ところで、カリウムには、カリウム39、カリウム40、カリウム41があります。
このうち、カリウム39とカリウム41が大部分を占めていますが、
残りのカリウム40は放射性物質です。
そういうわけで、人間の体から常に出ている放射線の発生源は、カリウム40です。
ちなみにカリウム40の半減期は、12億8千万年です。
 次に、この本から、エピソードを紹介しましょう。
それは、放射線の素をわざわざ飲んだ有名人の話です。
ブッシュ前大統領の父親であるブッシュ元大統領は、バセドー病に悩まされていた。
この病気は、甲状腺ホルモンが分泌されすぎるもので、
これを治すために医師団は、放射線を出す物質を投与することにした。
その物質とは、ヨウ素131で、人間の体内に入ると、甲状腺に集まる性質がある。
この結果、放射線の作用によって、大統領の甲状腺は縮小して、
二ヶ月ほどで治療に成功している。
 将来、人類にとって、放射線は、「塩」と同じような存在になることを期待しています。
「塩分」は取りすぎると健康被害が発生しますが、塩は生きていくうえで必要です。
 放射線も「量」が問題です。
将来、放射線を上手にコントロールして、工業的にも医療的にも役立てることになると思います。

放射能と放射線 2011 4 3

書名 放射能 そこが知りたい
著者 安斎 育郎  かもがわブックレット

 この本は、というよりも、この小冊子は、
「放射能」について、身近な疑問や素朴な疑問に答える形で、
わかりやすく解説しています。
 政府は、風評被害や過度の不安が広がらないように、
この小冊子を国民に配布した方がよいと思います。
「知らないから不安になっている」という側面が大きいと思います。
この小冊子は63ページしかありませんので、すぐ読むことができます。
 さて、この小冊子を参考にしながら、
放射能と放射線について書いていきましょう。
 まず、前から気になっていたことですが、
放射能と放射線を混同して使っているケースが多いと思います。
 放射能とは、ある種の原子が「放射線」を出して、
別の種類の原子に変わってしまう「性質」のことです。
だから、「放射能が飛ぶ」ということはありません。
 このような「性質」は、いろいろな原子にあります。
ただし、夜、寝ている間に、
「鉄」が放射線を出して「アルミニウム」に変わってしまったら、
安心して眠れなくなってしまうでしょう。
あるいは、「鉛」が放射線を出して「金」に変わってしまったら、
別の意味で、おちおち寝ていられないでしょう。
 たいていの原子は、安定的な性質ですが、
やはり、どの世界にも「変り種」は存在します。
 特に何もしていないのに、勝手に放射線を出して、
別の原子に変わってしまうという「変身」が得意な原子が存在します。
自然界では、ウラン238が、そうでしょう。
ウラン238は、アルファ崩壊を8回、ベータ崩壊を6回起こして「鉛」に変身します。
 最近、お茶の間で有名になった「ヨウ素131」や「セシウム137」も、
このような「性質」を持っています。
ヨウ素131は、ベータ線やガンマ線を放出して、キセノン131に変化します(ベータ崩壊)。
セシウム137も、ベータ線やガンマ線を放出して、バリウム137に変化します(ベータ崩壊)。
 放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線など、いろいろ存在します。
ベータ線は、透過力が弱いのですが、問題は、ガンマ線です。
ガンマ線は、エネルギー量が多く、非常に強い透過力があります。
私たちの体を貫通してしまう場合もあるのです。
その透過の過程で、人体の細胞や、細かく言うとDNAを傷つけてしまいます。
しかし、DNAには、元々、修復機能がありますので、
「過度の心配性」になる必要はありません。
太古の昔から、「人類は、放射線との戦いだった」と言えるからです。
 文明の進化によって、DNAを傷つけてしまうのは、
放射線だけでなく、「化学物質」という新たな問題が発生しています。
 アルファ線やベータ線は、粒子的な性質ですが、
ガンマ線は、電波というか、電磁気的な性質です。
 いずれにせよ、人体に衝突して、透過していく過程で、
エネルギーを失って、無害なものに変わるか、消えてしまいます。
 何が問題なのかというと、
こうした放射線が、人体を透過していく過程で、
細胞やDNAを傷つけてしまうことにあります。
ただ、細胞やDNAを傷つけしまうという問題で考えれば、
現代においては、放射線だけでなく、化学物質もあるということです。
 次に、放射線というと、人工放射線と自然放射線がありますが、
人工放射線は有害で、
自然放射線は「自然」という言葉がついているので、
無害ではないかと考えてしまうかもしれませんが、
両方とも有害です。
 人類は、いろいろな形で、
自然界からも放射線を受けて生きています。
人工放射線も自然放射線も、人類にとって有害です。
問題は、放射線を受けた量にあります。

放射線量 2011 3 27

書名 最新 ヒトの遺伝の基本と仕組み
著者 賀藤 一示ほか  秀和システム

 この本は、数年前にも紹介しましたが、
放射線量についても記述がありますので、
もう一度、取り上げます。
153ページ「自然放射線は浴びても大丈夫?」から

「急性放射線障害が発生する線量」
途中、省略
3Sv 発熱・感染・出血・脱毛・子宮が不妊になる
2Sv 倦怠・疲労感、白血球数低下、睾丸が不妊になる
1Sv 吐き気などの「放射線病」
250mSv 胎児の奇形発生(妊娠14日〜18日)
〜20mSv これ以下の被爆では放射線障害の臨床的知見はない

「低線量放射線」
50mSv 原子力施設で働く人たちへの規準(年間)
10mSv ガラパリ(ブラジル)の人が年間に受ける自然の放射線量
0.6mSv 1回の胃のX線診断で受ける量

「自然放射線」
4.4mSv (医療検診も含めて)日本人が1年間に受ける平均の放射線量
2.4mSv 日本人が1年間に自然から受ける平均の放射線量
1.0mSv 原子力施設の公衆への規準(年間)
0.2mSv 成田・ニューヨーク間の片道飛行で宇宙線から浴びる量

(注意)
 ここで注意が必要なことは、理科が苦手な人は、
数値や単位を読まないで、文章だけ読んでパニックになってしまうことです。
(これが理科が苦手となる原因です)
1Sv=1000mSv Sv(シーベルト) mSv(ミリシーベルト)

 さて、私たち人類は、太古の昔から放射線をかいくぐって生き延びてきました。
そのため、人類のDNAには、損傷を前提とした修復機構が備わっています。
それは、この本の中で「DNAの損傷は、ほとんどが元に戻される」に詳しく書いてあります。
また、放射線や紫外線を大量に浴びてDNAが大きく損傷した場合についても、
細胞には、緊急避難的な機構が備わっています。
「人類の歴史は、放射線とともにある」と言っても過言ではないでしょう。


























































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