市場の失敗 2009 11 8
「市場の失敗」とは、一般の人には、なじみがない言葉ですが、
これは、経済学で使う言葉です。
経済学というと、難しいというイメージですが、
経済学を知っていれば、まったく別の視野が開けてきます。
毎日、退屈でマンネリ化している人は、
経済学を学ぶとよいでしょう。
新しい視野が開け、毎日が新鮮に感じられるでしょう。
こういう意味で、経済学は「娯楽」かもしれません。
ともかく、人生の複眼化は、人生を楽しくしてくれます。
さて、「ニューズウィーク日本版 2009 11 4」から引用します。
(以下、引用)
アメリカは、市場経済に絶大な信頼を置く人が多い国。
政府が口を出すと、ろくなことはない、
それでは社会主義になり、人間の自由に反する、
という強固な信念を持つ人たちが、
公的医療保険の導入に反対している。
民間企業に任せればいい、
すべては市場経済が解決してくれるはずだ・・・・・。
というわけで、今のところ、アメリカには、
日本のような国民皆保険制度はない。
65歳以上の高齢者と障害者を対象にした「メディケア」と、
低所得者向けの「メディケイド」があるだけだ。
該当しない人は、民間の医療保険に入るしかない。
中間所得層は、低所得者ではないので公的保険は受けられないが、
民間の医療保険は掛け金が高くて加入できない。
こんな人が4700万人もいる。
企業に勤めていれば、
企業が保険の掛け金の一部を負担してくれるが、
失業したら、職も保険も失う。
保険を使えず、多額の医療費で破産したり、
医療費が払えないために治療が遅れて死亡したり。
これが「市場の失敗」だ。
自由市場に任せると、国民の福利にプラスにならないことがある。
利益を追求する民間企業としては、
費用ばかり掛かる人には保険に入ってほしくない。
医療保険の分野では、既に民間企業が市場を支配しているので、
新規参入を阻止しようとする。
オバマ大統領の医療保険制度改革阻止のためなら、
金に糸目は付けず宣伝広告に力を入れ、
反対派議員を支援する。
(以上、引用)
映画ターミネーターでは、
コンピューターが人間を駆逐してしまう。
市場経済も、人間を駆逐してしまう。
「すべては市場経済が解決してくれるはずだ」
このセリフは、金持ちと投資家のためにある。
正確に言えば、
市場経済は、金持ちと投資家以外の人間を駆逐してしまう。
「釣った魚には餌をやらない」
もしかすると、これが保険会社の隠れた気持ちかもしれません。
日本においても、保険会社が、いろいろな難癖をつけて、
保険金が支払われないという話を、時々、聞きます。
しかしながら、保険金を気前よく払えば、投資家の怒りを買うでしょう。
その上、経営陣に巨額の報酬を払えなくなるという「深刻な事態?」を招きます。
日本人にはピンとこないでしょうが、これはアメリカでは重大な事態です。
これでは、何のために苦労して保険会社を作ったのか、わからなくなってしまう?
「市場経済は、実に難しい」と思うかもしれません。
こう考えては、どうでしょうか。
資本主義国において、金儲けをするのは当然です。
しかし、「金儲けしていい分野」と「金儲けしては悪い分野がある」と考えるべきでしょう。
もちろん、医療保険分野において、
適正な利潤を求める保険会社の存在は、市場を活性化する意味で必要な存在です。
しかし、アメリカでは、
「短期の利益を求める投資家」と「巨額の報酬を求める経営陣」が、
適正な利潤を求める保険会社の存在を許さないでしょう。
日本人から見れば、アメリカは不思議な国に見えるでしょう。
以下の「窮屈なアメリカ」も参照してください。
窮屈なアメリカ 2008 6
29
書名 見えないアメリカ 保守とリベラルのあいだ
著者 渡辺 将人 出版社 講談社現代新書
アメリカにおいて、「保守」と「リベラル」は、重要なキーワードです。
しかし、日本人にとって、「保守」という言葉は理解できても、
「リベラル(Liberal)」という言葉は、なじみがないと思います。
「Liberal」を英和辞典で調べてみると、
「自由主義の、進歩的な」とか、「自由主義者、自由党員」という意味が出てきます。
アメリカの「Liberal」は、英和辞典の「Liberal」と、ちょっと違います。
アメリカの「Liberal」とは、政治用語であると同時に、生活用語でもあります。
大雑把に言えば、アメリカ人は、保守とリベラルの二種類の人種に分類されます。
何だか、人類学の分類のような話になってきましたが、
「見えないアメリカ」という本を読むと、そういう気分になります。
この本によれば、以下のとおりです。
「リベラルな飲み物」 スターバックス
「保守系の飲み物」 クアーズビール
(リベラルな人の生活の嗜好がスターバックス、
保守的な人の嗜好がクアーズビールで、飲み物で象徴されます)
もちろん、これは、「強引な比喩」と著者は言いますが、
「おおまかにいって当たっていると真剣に考えられている。
アメリカの選挙陣営は、スターバックスとクアーズビールの消費データを、
支持政党の割り出しに使用しているからだ」と言います。
それから、「モーの保守化実験生活」の話が出てきます。
「リベラルな人が、保守的な生活の嗜好を持つことは、まったくないのだろうか」
リベラルな地域から、保守的な地域に転居して、自分が保守化するか実験をしたのです。
ところで、保守化する道具とは何か。
保守的なメディア FOXニュース →このぐらいは、日本人にも、わかるでしょう。
保守系の音楽 カントリー音楽 →これは、日本人には、わかりにくいかもしれません。
保守系の映画 善と悪が明快に分かれているもの。勧善懲悪のもの。
たとえば、「インデペンデンス・デイ」とか「ロード・オブ・ザ・リング」
保守系の食べ物 ステーキとビーフジャーキー →こうなると、日本人には「なぜ」という疑問が出る。
ちなみに、リベラルな食事とは、ベジタリアンでしょうか。
「都市部のリベラル系が、不健康なジャンクフードと決めつけて軽蔑するファーストフード店が、
保守的な中規模の地方都市では『レストラン』として扱われていて、
車でやってきた家族連れが、『食事』をして帰る姿も日常的だったりする」
保守系の娯楽 NASCAR
著者によれば、「ナスカー」とは、
アメリカの中西部や南部で開催されるレーシングカー競技のことだが、
これを観戦する人たちの8割以上が、保守系で共和党支持者だとされているという。
何だか、ここまで保守とリベラルで分類されていると、
日本人には、「アメリカは窮屈だ」と感じることになるでしょう。
日本においては、飲み物や食べ物に、あるいは生活嗜好に、
「政党色」や「政治色」はありません。
何でも、自由で、勝手気ままです。
(こうなると、日本は、リベラルに分類されるのでしょうか?)
ともかく、アメリカ人は、「窮屈なアメリカ」に嫌気が差したら、
自由な国「日本」に移住したら、どうでしょうか。
日本には、スターバックスもマクドナルドも、星の数ほどあります。
望むならば、リベラルな生活も、保守系の生活も、自由にできます。
リベラルと保守の間で「転向」するのも自由ですし、誰も気にしないでしょう。
何しろ、アメリカと違って、日本は自由の国だからです。
この本には、日本人からすると、「驚くような話」や「唖然とする話」が、たくさんあります。
アメリカに興味がある人は、必読の書と言えるでしょう。